ショッピングモールのにぎわいのまんなかで、「木」の話に耳をかたむける。2026年10月3日、イオンレイクタウンで開かれた「サーキュラーエコノミーラボ in 越谷」のステージで、建築家と研究者が語り合いました。テーマは、木が旅すること、人がつながること、まちが循環すること。聞き終えたあと、身のまわりの木の家具を、ちょっと撫でたくなるような時間でした。
「レイク」は、どこにある?
話は、会場のすぐそばにある「湖」から始まりました。
「レイクタウンと聞くと、イオンレイクタウンを思い浮かべる方が多いと思います。でも本来の“レイク”は、すぐ近くにある大相模調節池のことなんです」
そう教えてくれたのは、建築家の畔上順平さん。大相模調節池は、川があふれるのを防ぐためにつくられた人工の池です。畔上さんは、レイクアンドピースのメンバーとともに、この水辺を楽しい場所にするための場づくりに関わっています。
レイクタウンは、まちびらきから20年足らずの新しいまち。「環境と共に生きる」をコンセプトに生まれたまちで、もともと“エコ”がテーマになっています。だから水辺の場づくりでも、鉄やガラス、石油からつくられた素材ではなく、めぐる素材を使いたい。そう考えて選んだのが、木でした。
木は、旅をしてやってくる
トークのタイトルにある「木が旅する」。いったいどういう意味なのでしょう。
畔上さんによると、越谷には建築に使えるような森がほとんどありません。だから昔から、秩父をはじめとする埼玉の西の山や、栃木、茨城の山から木を運んできました。
「トラックなんてない時代ですから、人が担ぐか、荷車で運ぶか。いちばん多かったのは川です。江戸の町も、川を下ってきた木でつくられていました」
越谷の木は、みんな遠くから旅をしてきた。そう思うと、木造の建物の見え方が少し変わってきます。
使わないと、めぐらない素材
石油などの資源は、できるだけ使わない方向に向かっています。でも木は少し事情がちがう、と畔上さんは言います。
「木は、ある程度使っていかないと循環しないんです。山の木を切らないと、新しい木を植えられないので」
スギやヒノキは、30〜50年ほどで使えるようになります。自然のなかで、わりと短いサイクルでめぐる素材なのです。
そして大切なのは、燃やすまでの時間をできるだけ長くすること。木が炭素をため込んでいる時間が、そのぶん長くなります。
「日本の古民家は、少なくとも100年は使われてきました。解体したら別の建物や家具に使い、道具になり、どんどん小さくなって、最後は燃料になる。僕らがやろうとしていることは、先人たちが当たり前にやってきたことなんです」
レイクタウンの水辺にある木のデッキやステージも、傷んだら削り直しながら、長く使い続けています。
水の上を動く、木の「床」
続いて登場したのは、埼玉大学で水辺のまちづくりを研究する髙木宗房さん。スクリーンに映ったのは、水の上をすべるように動く、小さな木の家のような乗りものでした。
その名も「海床(うみどこ)ロボット」。運転手がいなくても自由に動ける、3m四方の“動く床”です。きっかけは、オランダ・アムステルダムで開発が進む自律航行ボート「Roboat(ロボート)」との出会いでした。ボート同士が合体すると橋になり、広場になる。ゴミ収集の日には、ゴミ箱が自分で街をまわってくる。
「これを日本でやるなら、上は木でつくらないと、と思ったんです」
土台はシンプルなフロート。その上に何をのせるかは、そのまちの人たちが決めます。大阪、名古屋、そして埼玉。各地で「ここでこんなことがしたい」という声を形にしてきました。
山の木が、カフェになって水辺に浮かんだ
埼玉で使ったのは、小川町の山で手入れのために伐られた木です。
「山は人が手を入れないとだめになってしまう。でも、伐った木をただ捨てるのはもったいない。せっかくなら面白いことに使おうよ、と」
都会育ちで、山に入ったことがない学生も多かったそうです。学生たちは地元の企業と一緒に、小川町の木で海床ロボットにのせるカフェを組み立てました。完成したカフェはレイクタウンの水辺に浮かび、客席のユニットと合体します。コーヒーを買いに行くのではなく、コーヒーのほうからやってくる。そんな実験でした。
面白いのは、そのあと学生たちに起きた変化です。
「小川町が“気になるまち”になって、“好きなまち”になっていったんです。休みの日に『ちょっと山に行ってきました、まだきれいかな』なんて言い出して」
伐られるだけだった木が、テクノロジーと出会って動き出す。それが人とまちをつなげていきました。地域への愛着こそが、いいまちをつくる。髙木さんはそう話します。
面白がることが、循環のはじまり
では、なぜ木なのか。畔上さんの答えはシンプルでした。
「木のいちばんの特徴は、加工しやすいことだと思います。小さな子どもからお年寄りまで、誰でも削ったり切ったりできる。ここに鉄の塊を置かれても困りますけど、木の塊なら、子どもたちはきっと何かつくり始めますよね」
身近だから愛着がわく。愛着があるから、めぐらせたいと思える。人を動かすのは、結局のところ気持ちなのだといいます。
髙木さんが学生たちに伝えているのは、「気づくこと」でした。
「山に入ると、木って意外とあったかいんだ、こんなにいい香りがするんだ、と気づくんです。そこから『これって、このあとどうなるんだろう』と面白がり始める。いらなくなったから捨てる、じゃなくて、『待てよ、これはあの山の木だ』と思える。それがサーキュラーの原動力になるんじゃないかな」
妄想から始まる、水上の実験都市
トークの最後に映し出されたのは、レイクタウンの水辺に木造の浮島が集まる未来の姿でした。仮の名前は「水上WOVEN CITY」。浮島の上には畑があり、遊び場があり、くらしがあります。
「水の上で長く過ごそうとすると、水もエネルギーも、本気で循環を考えないと成り立たない。だからこそ実験する意味があると思っています」と畔上さん。水辺ではすでに、浮島の上で水耕栽培の小さな実験が始まっています。
「循環を目的にするというより、そこで過ごしているだけで、循環する社会のなかに自分がいると実感できる。そのためには、まず面白い場所をつくらないといけないんです」
「妄想しないと、始まらないですからね」と髙木さん。会場からは笑いが起きました。
楽しい実験を、まちのなかで
「真面目に考えるだけでは、社会には広がっていかない。楽しいとか、面白いとか、そういう気持ちがすごく大事なんだと思います」
最後にそう話した畔上さん。難しい実験ではなく、楽しい実験を重ねながら、循環するまちをつくっていきたいといいます。
モデレーターを務めた石野剛史さんは、こう締めくくりました。「サーキュラーエコノミーの最強の素材は、木材。今日はこの言葉を、ぜひ覚えて帰ってください」
遠くの山から旅をしてきた木を、削り直しながら長く使い、形を変えてめぐらせていく。それを面白がる人が増えていけば、まちは少しずつ循環していくはずです。
レイクタウンに来たら、モールのなかだけでなく、湖のほうにも足をのばしてみてください。木のデッキに腰かけて、水辺の風を感じてみる。それが、いちばん身近な循環との出会いになるかもしれません。
PROFILE
- 畔上順平(あぜがみ・じゅんぺい)
- 建築家、一級建築士。けやき建築設計 取締役。大相模調節池の水辺で、レイクアンドピースとともに木を活かした場づくりに取り組む。
- 髙木宗房(たかぎ・むねふさ)
- 埼玉大学大学院理工学研究科 特任教授。専門は建築計画、都市計画。竹中工務店で設計・開発計画に携わった後、大学で水辺のまちづくりを研究。海床ロボットのプロジェクトにも関わる。
- 石野剛史
- モデレーター。県内の水辺の再生・利活用に長く関わる。
サーキュラーエコノミーラボ in 越谷
2026年10月3日(土)・4日(日)/イオンレイクタウンkaze 光の広場
主催:埼玉県
公開日:
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